2014年1月24日金曜日

書ききれねえよ。

なかなかこういうテンションにならないので,今日はおセンチな長文をもう1つ。渡部です。



以下,昔話なので,お時間ある方だけご覧下さい。




私は検察官になりたくて司法試験の勉強を始めました。

検察官になりたくなった理由はただ一つ。大学の授業で「起訴便宜主義」を勉強したからです。おぉ,検察官ってこんな権力持ってるんだ,おれも欲しい,と。

で,ものすごい天運により,司法試験に1回で合格(奇跡)。

まさか合格するとは思っていなかったので,弁護士事務所の就職活動もほぼしておりませんでした。検察官になる気まんまんだったし。


合格した年の11月,配属地である静岡県で修習を開始しました。

最初の2か月を,静岡の弁護士事務所で指導を受けました。前記事で書いた事務所です。

そして,ちょうどその頃,川崎のとある事務所の先生から,「お前面白いから遊びにおいで」と飲みに連れて行ってもらうことがありました。

後で分かったことなんですけど,これは「就職活動として人物を見られていた」ようで,そんなことを微塵も考えていなかったおれは,「わざわざタダ飯食わせてくれるなんて良い人がいるなぁ」と思っていました。そうです。私の元ボスです。

「明日,遊びにおいでって言われてるから,仕事早めにあがってもいいですか?」と指導担当に言うと,「おう,勝手に行って来い」と送り出してくれました。

「今度は源さん一人で遊びにおいで(当時は「さん付け」だった。)」と言われた日,ふと思いました。






この事務所,すげー楽しいな。


この人(元ボス)の感性,すげーな。


おれ,就職活動していないけど,検察官になれなかったらどうしよう。






一次会が終わり,二次会に行く道すがら,思い切って,「この事務所って,面接とかってやってませんか?おれ,申し込んでみたいんですけど。」って言ってみました。



「うちに入りたいの!?よし採用!」




とんでもねえ人だと思いました。おれはこの時点で履歴書も出していません。おれの身元確かめなくていいのかおい。本当に司法試験を合格したかどうかも確かめてねぇぞおい。どんだけ度量でけぇんだおい。いやいや,同じ事務所の先生方も拍手してるけど,こんなんで決めていいのか,大丈夫かおい。



「あ,ちなみに年俸の相談だけど…」



同期合格者は1851人いますが,路上で内定を言い渡された上,内定の後に諸条件を詰めた弁護士は私だけだと思います。



そして,このときに検察官志望であることを告げられなかったのが,私の人間としての醜さであり,今でも申し訳なかったと思っています。


翌日。



早速指導担当に内定をもらった旨報告しました。おれ自身はあまりに唐突だったので興奮して喋っていたんですけど,やはり指導担当は,それとなく「これは就職活動だな」と思っていたようで,

「そうか,良かったね。」(以上)

あっさり。


4月。



念願の検察修習が始まりました。

検察官は誰でもなれる訳ではなく,一定の能力と素質を教官に判断された人しかなれません。

私に素質があったかは分かりませんが,少なくとも,誰よりも熱心にアピールしていたと思いますし,指導側の検察官もそれを感じていたと思います。

検察庁にいた2か月はとてもディープで,正直ブログで書けないような武勇伝を数多く残し,その後数年間は静岡に爪痕が残ったと聞いております(いや,さすがに書けない。)。


5月頭。元ボスから,「GW遊びに来ない?」と誘われ,わーいわーいとノリノリでお寿司を食べに連れて行ってもらいました。

で,開口一番,

元ボス「源が検察官志望って聞いたんだけど…」

おれ「…(絶句)」


これが今でも語り継がれている「寿司屋事件」です。一部マスコミ(兄弁)では「源はあまりの衝撃に寿司を1つも食べることなく静岡に帰って行った。」と報道されていますが,寿司は食いました。おいしかったです。

この時点で,私は元ボスのことが大好きになっていましたので,絶対にウソをつくわけにはいかないと思い,全部話しました。

司法試験は検察官になるために始めたこと。

内定をもらったときはビックリして話せなかったこと。

でもこの事務所の仲間にしてもらえる評価をしてもらったことは本当に嬉しかったこと。

検察官は自分の夢であること。

全部話しました。



元ボスは,黙ってずっと聞いてました。



で,こう言いました。

おれは源に惚れて内定を出した。
源という人間を好きになって内定を出した。
だから,源には幸せになって欲しい。
源が幸せになれるなら検察官になるのも仕方ないと思う。
もちろん,うちに来て欲しい。
ただ,うちも人員戦略を考えて経営しているから,申し訳ないけど検察官の道を目指すなら,うちとしては早めに次の人間を捜さなければならない。
だから,早めに回答をもらえないだろうか。



帰りの新幹線で泣くよね,ここまで言われたら。仕方ないよね。



翌日。検察庁。夕方。

おれ「ちょっといいすか?」
検事「どうしたの?今明日の取調べの準備を…(おれの顔を見て,側にいた事務官に)ごめん,ちょっと1時間くらい席外してくれる?源,1時間くらいしか時間とれないけど,いい?」
おれ「いや,お仕事中だからまた今度でいいです。ありがとうございます。」
検事「いいから座れ。」


書いてて思ったけど,ドラマみたいだ。


おれ「…という訳なんです。」
検事「なるほど。で,お前はどうしたいんだ?」
おれ「正直悩んでいます。あの人(元ボス)はすげー人です。ただ,弁護士の仕事には疑問を持っています。仕事それ自体は検察官の方に魅力を感じています。だから,あの人と検察官の仕事のどっちをとるかで悩んでいるんだと思います。」
検事「なるほど…(無言)」



書いてて思ったけど,この検事どんだけ良い人なんだ。



検事「お前,なんで検察官になりたいの?」
おれ「被害者と被告人の両方にコミットできるからです。弁護士だったら被告人だけじゃないですか。それじゃ根本的な解決にならないんです。」
検事「どういうことだ?」
おれ「検察官だったら,被害者と被告人,両方のために仕事できるじゃないですか。」
検事「それは違うぞ。」
おれ「え?」
検事「検察官は何のために仕事をするか,分かるか?」
おれ「被害者と被告人のためです。」
検事「違う。『公益』のためだ。」





おれ,衝撃走る。





おれ「『公益』ってなんですか,そんな抽象的なもん,分かんないじゃないですか。おれ,K検事のこと大好きなんだから,そんな政治家みたいなこと言わないで下さいよ!(キレる)」
検事「そんなこと言われてもそうなんだから仕方ない。我々は公益のために仕事をしている。だからこそ,辛い決断をしなければならないこともある。」
おれ「よく分かんねえっす。でも金だけ求めるよりいいっす。」
検事「お前,金を稼ぐことが悪いことなのか?お前,なんか前からそういう発言してたな。」
おれ「悪くはないっすけど,なんか違うなって。事務所でかくして,金稼ぐだけならなんか違う仕事できるじゃん。」
検事「お前,事務所を大きくすることが下賎なことのような言い方をするな。いいか,事務所を大きくしないとできない仕事ってのがあるんだ。そのためにどれだけの苦労が必要か考えたことがあるか。いいか,弁護士の先生方はみんな経営の苦労をされながら仕事をされているんだ。お前は,考えが足りない。」



このK検事,すごい穏やかで,このときも怒鳴ること一切なかったんですけど,弁護士の悪口言った瞬間,目がキレてましたね,超怖かった。


結局結論は出ず,うなだれて検察庁を後にするの巻。





夜。弁護士事務所。

おれ「こんばんは。」
指導担当「あれ?今は他のとこで修習じゃなかったっけ。どうした。」
おれ「飯,食いませんか。」
指導担当「いや,仕事したいんだけど。」
おれ「相談があります。」
指導担当「何だよめんどくさい。いいよ。」


リアルで本当にめんどくさそうでした。


おれ「…と言う訳なんです。」
指導担当「ふーん。」
おれ「どう思います?」
指導担当「どっちでもいいんじゃない?」


本当にこう言いました。

いやいや,こっちは人生で初めて悩んでいるんだよ。今まで人生で悩みなんてないバカな人間だったけど,初めて悩んでんだよ。こういうとき,なんか良いこと言うのが指導担当的なアレじゃないの?なんかくれよプリーズ。

指導担当「よし,検察官になれ。」
おれ「なんで?」
指導担当「だって,弁護士になった後って検察官になれないじゃん。検察官になって嫌になったら弁護士になればいいんだよ。


このおっさんを殴ってやろうかと思いました。

なるほど,結構本気で考える気がないんだなということを感じとった私は,もう普通に食事とお酒を楽しむことにしてふてくされました。そんな私を見ながら,ガハハと酒飲んでました,指導担当。



そしたらさ,

指導担当「おい。」
おれ「なんすか(ふてくされながら)」
指導担当「さっき検察官の仕事は公益とかうんたらかんたら言ってたろ。」
おれ「言いましたよ(ウイスキーに夢中)」
指導担当「弁護士の仕事は何か,教えてやろうか。」
おれ「依頼者のためにやるんでしょ。」
指導担当「依頼者のために,何をやるんだ?」
おれ「弁護したり,書面作ったり…なんか,そんな感じ。」
指導担当「弁護士の仕事は2つだけだ。」
おれ「は?」
指導担当「『決断』することと,その決断に『責任』を負うこと,この2つだけだ。」
おれ「へ?」
指導担当「他は何もしなくていいぞ。この2つだけだ。弁護士になるんだったら,覚えておけ。」

これで終わりですよ。おれ,ぽかーんとしてたら「じゃあ仕事戻るわ」って事務所帰ってった。

弁護士になれって言わなかったなぁ…。

検事になれとも言われなかったなぁ…。

どっちからも誘われなかったなぁ…。

おれってどっちにも向いてないのかなぁ…。

人生で一番長い夜を過ごしました。











朝起きて,弁護士になろうと思いました。

不思議と迷いはありませんでした。

理由はいろいろあって,たぶん,元ボスからの評価が嬉しかったりとか,弁護修習が楽しかったとかいろいろ挙げられるんですけど,本当の決め手は,実は今でもよく分かりません。

でも,なんとなく,前の晩,指導担当が話していた弁護士の仕事っていうのが自分の中で理解できず,それが逆にやってみたいという動機になったとか,そんな感じだと思います。よく分かりません。

すぐに元ボスに報告したかったんですけど,筋は通さなければなりません。

朝一で指導担当検事の元へ向かい,検事志望を撤回したい旨伝えました。

検事は微笑みながら,「後悔しない?」と聞いてきましたが,「お願いします。」と答えました。

元ボスにすぐに報告したいので,教官に連絡を取ってくれないかと頼み,教官に繋いでもらって撤回する旨伝えました。

「君は一番早くから検察志望を名乗り出ていてくれたから,正直残念だ。」と言ってくれましたが,本心はどうなんですかね(ゲス顔)。

元ボスには,「ふつつかものですが」とすぐに電話しました。

それからの検察修習は楽しかったです。

もう二度と取調べをすることはないから。

もう二度「こちら側」に立つことはないから。

これが,人生で最後のおれの事件だから。

必死にやって,調書まいて,指導担当検事に決済お願いしたら,5文字だけ修正されて後全部採用されました。

実はその事件,私がマズい取調べを一度して,指導担当検事から怒られた事件だったので,正直決済が通ってほっとしました。

そしたら,指導担当検事が,

「源,N山(取調べでコンビを組んでいた同期),ちょっと来い。」

やだなにこれ超怖い。

これ完全に怒られるパターンだ,在宅とは言え2か月丸々かけて調べたからな,時間かかり過ぎちゃったかな。







検事「よくこの事件を落とした。」






あれ,あたし,褒められた?テヘペロ状態?よーし,ふざけちゃおっかな☆





おれ「やっぱおれって検事の才能あるんすかねー。こんなんだったら検事志望撤回しなければ良かったな☆(テヘペロ)」

周りが笑う中,





検事「全くだ。(真顔)」





トイレで泣いた。





時が経ち,二回試験も終わり,私は優秀な成績(たしか)で弁護士になることが決まり,仕事を始める前に,みんなで静岡の皆さんにお礼の挨拶を行くことにしました。

裁判所や検察庁の皆さんに挨拶した後,各自の弁護修習事務所へ挨拶。夜から有志で全体飲み会という流れ。

ホテルもとって,今日はしこたま飲むぞ!

さぁ,弁護士事務所へ向かうぞ!

以前,「合格したらなんか奢ってやる。」と言って,「エビがいいです。」と答えたら,「桜えびでいいか。」とか抜かしてたけど,どんなボケをかましてくれるのかなー。






なんだこの見たことも無い大きさの伊勢エビは。しかも2匹。




指導担当「まぁ飲め。」
おれ「いただきます。美味いっす。」
指導担当「今日は帰るのか?」
おれ「いや,今日は夕方から全体の飲み会を裁判所と検察庁がやってくれるんで,それ行こうと思ってます。」
指導担当「あぁ,なんかそんな話聞いたな。」
Iさん(事務員)「指導担当弁護士にもFAX来てましたよ,たしか。」
おれ「あ,でも弁護士の参加人数,すげー少ないと思いますよ。先生,そういう会合あんま出ないじゃないですか。大丈夫っすよ。」
指導担当「おれ,行こうかな。」
おれ「マジで?」



翌日はひょうでも降るんじゃないかと思いました。



全体の飲み会会場に2人で向かい,同期の連中が既にワイワイやってました。

我々2人は既にかなり酔っていたので,テンションも高めに行こうと。

お世話になったK検事がいました。

指導担当を一人にしておくのも少し気が引けたけど,他と楽しく話をしているし,

おれ「ちょっとK検事に挨拶してきますね。」
指導担当「うん。」

よし,とりあえずK検事に「渡部『先生』」と呼ばせよう。ふんふーん♪

おれ「お疲れさまです!」
K検事「(おれの顔を見て,微笑みながら)…お前は頑張ったなぁ…。」





おれ,何故か号泣。



嗚咽する程の号泣。



喋れない程の号泣。



隣の同期がもらい泣きする程の号泣。




それを見て何かを察し,数万円置いて「おれ帰るから,しっかりやれよ。じゃあな。」と言う指導担当弁護士。





その優しさを見て申し訳なくなってまた号泣。










修習中でさえ,この他にもいっぱい恩を受けているんです。

弁護士になって,元ボスにお使えして,あまつさえ独立させてもらって,独立後も仲良くさせてもらって,おれの人生,恩しか受けてないんすよ。

だからおれ,下に恩を返したいんすよ。

だからおれ,チューターやってるんすよ。




何だこの話。


ここまで読んで下さった方,ありがとうございました。

この業界は世知辛くなってきたと言われておりますが,私は絶対にそんな風にはさせないと誓っております。

そのためにはさ,ロースクール1期生のおれらがしっかりしないといけないんだ。